合気道の「争わざるの理」にも通じるブルース・リーによる「戦わずして勝つ」とは

ブルース・リーといえば40歳オーバーのおじさんであれば誰でも一度はあの強さにあこがれたのではないでしょうか。

私もその一人で子供のころからブルース・リーのファンでして、主演している映画はすべて観ました。
「グリーンホーネット」に始まり「死亡遊戯」にいたるまで映画のみならず、レンタルビデオでも何度となく繰り返して観たものです。

そのブルース・リーの実質的に最後の作品となった「燃えよドラゴン/Enter the Dragon」(1973年)に面白いシーンがあったので紹介させていただきます。

燃えよドラゴンの船上シーン

武術トーナメントが開催されるハンの要塞島に向かう船上でのシーンです。
ニュージーランドのファイター、パーソンズがリーを挑発してきます。

挑発してくる

What’s your style?
(お前の流派は?)

My style? You can call it the art of fighting without fighting.
(私の流派?「戦わずに戦う芸術」というところかな。)

The art of fighting without fighting? Show me some of it.
(「戦わずに戦う芸術」?ちょっと見せてみろよ。)

Later.
(後でな)

Don’t you think we need more room?
(ここじゃ狭すぎると思わないか?)

Where else?
(どこでやるんだ?)

That island, on the beach. We can take this boat.
(あそこに島がある。この小舟で砂浜まで行こう。)

OK。

このようにしてパーソンズが小舟に乗り移ろうとしますが、リーは後に続かず、ロープをほどきにかかります。

早々と一人だけ小舟に乗り移ってしまったパーソンズはリーに向かって何やら叫んでいますが、もう戻ってくることはできません。

船から引き離されてしまって皆の笑いものです。

このように勝負を挑んできた相手に対し、冷静さを失わなかったブルース・リーが「戦わずに勝つ」ことができました。

以前このくだりを友達に話したら「それってただの卑怯者じゃないの。」と言われましたが、私はブルース・リーの頭の良さに感心したものです。

塚原卜伝のエピソード

ウィキペディア「塚原卜伝」より

日本にも同じようなエピソードがあります。
塚原卜伝(つかはら ぼくでん)という戦国時代の剣士に、以下の逸話があります。

卜伝は琵琶湖の船中で若い剣士と乗り合いになり、相手が卜伝だと知ったその剣士が決闘を挑んでくる。彼はのらりくらりとかわそうとするが、血気にはやる剣士は卜伝が臆病風に吹かれて決闘から逃れようとしていると思いこみ、ますます調子に乗って彼を罵倒する。

周囲に迷惑がかかることを気にした卜伝は、船を降りて決闘を受けることを告げ、剣士と二人で小舟に乗り移る。そのまま卜伝は近傍の小島に船を寄せるのだが、水深が足の立つ程になるやいなや、剣士は船を飛び降り島へ急ごうとする。しかし卜伝はそのままなにくわぬ調子で、櫂を漕いで島から離れてしまう。

取り残されたことに気付いた剣士が大声で卜伝を罵倒するが、卜伝は「戦わずして勝つ、これが無手勝流だ」と言って高笑いしながら去ってしまったという。

ウィキペディア「塚原卜伝」より

なるほど、ブルース・リーのくだりと似ています。もしかしたら、ブルース・リーはこのエピソードから「燃えよドラゴン」のシーンを思いついたのかもしれないですね。

心身統一合氣道の「争わざるの理」

心身統一合氣道では「争わざるの理」を学びます。
(この「争わざるの理」は藤平光一先生の造語だそうです。)

「心身統一合氣道の五原則」の中に

相手の氣を尊ぶ また 率先窮行

というのがあります。
これは相手の言い分をむやみに否定するのではなく「あなたの言うこともごもっとも」として一旦は受け入れ、そのあと「こういう考え方もありますよ」として導いていくというものです。

相手が争いをしかけてきてもむやみに逆らわず、尊びつつも最後は正しい方向へ導くことが「争わざるの理」です。

不要な争いを避けて最後は勝つという点ではこのブルース・リーの件と同じですね。

筆者:浪花章生

筆者:浪花章生

大阪市住吉区、大阪府堺市西区浜寺石津で合気道教室を運営しています。合気道の楽しさ、奥深さを伝えて、会員さまも私も共により有意義な生活を送ることを目指しています。

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